清原和博『告白』より抜粋

 ジャイアンツにきてから、ずっと勝負弱かった僕がこの年から勝負強さを取り戻せたんですけど、それはやっぱり怪我をしている間に考える時間があって、松井敬遠、清原勝負ということに対する気持ちを整理できたからだと思います。
 それまでは松井が敬遠されるたびに、自分の感情をコントロールできなくて凡打していたんですけど、怪我で休んでいる間に「松井が敬遠されないように、俺が打つんや、松井を援護射撃するんや」という気持ちになれました。もちろんトレーニングして肉体的に強いものを手に入れたことも大きかったと思います。それからはチャンスで結果が出て、松井敬遠、清原勝負ということはほとんど無くなりました。
 後から考えれば、それまでは松井のことをライバルとして意識していましたし、どこかコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。松井は年々、進化していましたし、技術もすごいんですけど、一番の僕との違いはメンタルの強さだったと思います。いつも同じように球場に来て、同じように球場を去っていく。そういう姿に「こいつすごいな」と思っていました。
 例えば、大チャンスに打てなくてチームが負けても、淡々としているんです。松井とはロッカーが近かったので、わかったんですけど、あいつはホームランを打った日も、まるっきり打てなかった日も同じように淡々と着替えて、同じようにスパイクを磨いてかえっていくんです。感情を見せないんです。僕なんかはチャンスで打てなかった日は、ベンチからロッカーに戻って、椅子に座ったまま30分は動けませんでした。
 松井は悔しくなかったんじゃなくて、感情をうまくコントロールできる人間なんだなと思います。僕とは根本的に違うんです。だから松井は松井。年齢にかかわらず彼には彼の凄さがあると自分の中で認めたんです。そうしたら、それからはあまり意識しなくなったというか。解放されました。