<イギリスは2021年にインセル(非自発的単身者、結果としての独身)を「数年以内に過激化する恐れのあるカテゴリー」に認定した。過激なインセル思想に基づく暴力への警戒感が世界的に高まっている>

イギリス政府が警戒を募らせた転機は、2021年8月に西部の港町プリマスで発生した銃乱射事件だった。3歳の女の子とその父親を含む5人を狙い撃ちにした後に自殺した22歳の実行犯ジェイク・デヴィソンはインセルを自認し、メンタルヘルスに既往歴もあった。

この事件はミソジニー(女性嫌悪)、フェミサイド(女性殺し)の典型例とみられている。そのため、イギリスでは女性嫌悪が広がらないよう学校で指導するなど、過激化防止の取り組みが始まっている。

「インセルの反乱は始まっている」
こうした事件はイギリスだけではない。

インセルが世界で注目された一つのきっかけはカナダのトロントで2018年4月、歩道で自動車を暴走させて歩行者11人を殺害し、逮捕されたアレック・ミナシアン(終身刑が確定)がFacebookで「インセルの反乱は始まっている」と宣言したことだった。

「自分をインセルにした世の中への反乱」を掲げたこの事件で殺害された11人のうち8人までが女性だった。

この事件の犯人ミナシアンがとりわけ共感を覚えていたのは、米カリフォルニア州アイラビスタで2014年、6人が殺害された事件で、逮捕前に自殺した当時22歳の実行犯エリオット・ロジャーといわれる。ロジャーは犯行声明のなかで女性とつきあう機会がなかったことへの不満や、「性的に活発な」男性への嫉妬を書き綴っていた。

https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2023/03/post-165.php