「ここにはムラの掟に関わることを外の人間に話してはいけないという掟もあり、それがムラの人に知れたら間違いなく痛い目にあいます。
私はそのことも熟知したうえで、よそに住んでいますから」と丁寧に取材に答えてくれた。

「そもそも十文字家は近隣の村に本家があって、分家がこの集落に移り住んできたんです。
昔のことなのでなぜ許可されたのかは分かりませんが、この集落の人間の血がないとここには住めないんです。
なのでこの集落の血を残していくためにAさんの母親に後妻として嫁いでもらい、さらに妹の和子さんも十文字家の嫡男の先代(利彦さんの義父)と結婚することになったのです」

幼少期に母親と妹を一度に“奪った”十文字家に対し、Aさんは複雑な感情を抱いていた。
だが、ある意味この「政略結婚」はムラの掟に従って為された合理性があった。関係者が続ける。