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中国では、違法行為と犯罪は二つの異なった概念である。犯罪の成否は、社会に与える危害の程度による。中国における通説によれば、犯罪とは、著しい社会危害性があり、刑事不法となり、刑事罰に値すべき行為を指す。中国刑法第13条には、「犯情が極めて軽く、危害が著しくない場合は犯罪にならない」とある。したがって、中国では犯罪かどうかを決定する主たる判断基準は、社会危害性の大きさであり、行為の類型ではないのである。

「中国刑法の理論と実務の現状」関西大学法学研究所 2010年6月

 前述の王雲海教授も以下のように言う。

 (中国では)犯罪や逮捕については質的要件だけでなく量的要件も必要とされているため、法律上も実際上も、違法と犯罪という二つの概念が形成され、両者がはっきりと区別される。犯罪は違法でなければならないが、しかし違法の全てが犯罪ではない。違法行為をしたからと言って、その全てが犯罪として逮捕され、刑罰を科すことができるわけではない。違法行為のなかでも量が大きいものだけが犯罪とされ、逮捕して刑罰を科すのである
「規定の金額に至らなかった場合は、そのまま窃盗行為を不問にするのかと疑問を持つ読者がいるかもしれないが、そのまま放置される時もあれば、治安管理処罰法で行政処分を科すこともある。加害者と被害者の間で解決するときもあれば、所属の機関などで叱責されて済むときもある。いずれにしても、少し物を盗んだからと言って、犯罪として大騒ぎになることがなく、すぐに沈静化するのである」