▽突然の寝たきり生活、「母だって恥ずかしいところを見られたくないはず」

 2人の生活に変化が訪れたのは、2021年11月ごろのことだ。トイレに行くため1階に降りると、風呂場にいた母親が「立てられへん」と助けを求めた。様子を見に行くと、転倒した母親がその場で動けなくなっていたという。


 母親はそのまま自力歩行が困難になって一日の大半を寝床で過ごすようになり、急速に弱っていった。買ってきた弁当は食べていたが、量は日に日に減り、箸で口に運ぶことさえできなくなった。

 実家を訪れた兄に、玄関先で相談したことはある。兄は「立てなくなったなら車で病院でもどこでも連れていったる。いつでも言ってや」と答えた。ただ、大人1人が通るのもやっとの生活道路を車は通れず、家の中は狭くて段差も多い。車に乗せることすら難しいことは兄も分かっているはずなのに。逆に突き放されたような気持ちになった。

 証人尋問で出廷した兄はこの時のやりとりについて後悔を口にした。

 「母がそこまで弱っているとは思わず、まるで人ごとのように弟だけに責任を負わせてしまいました。亡くなった責任の半分は僕にもあると思います」

 年が明けた2022年2月、母の布団の中にふん尿を見つけた。それまで自分でおむつをはいて処理していた母はごまかすように笑った。布団をめくると「嫌や、寒い」と大きな声で押さえた。