「私がちゃんと生きていけるか心配していると思います」

 ―社会に戻った時にしたいことはありますか。

 「母のお墓参りです」

 裁判長に「最後に言いたいことは」と問われると、抑え込んでいた感情を一気に吐き出すように、体を震わせながら言葉を絞り出した。

 「兄ちゃん、母ちゃんとちゃんと別れる機会をなくしてごめん。母ちゃん、ごめんなさい。つらい思いをさせてごめんなさい。冷たかっただろう、寒かっただろう。ごめんなさい…」

 法廷には、被告の嗚咽だけが響いた。

 ▽裁判長がかけた言葉

 約1カ月間の審理を終えて言い渡されたのは、懲役3年、執行猶予5年の判決だった。裁判長は判決理由で「死亡する少し前まで介護の必要性を感じず放置したことは無責任で、内向的な性格の影響を過大に見るのは適当ではない」とし、その上で「不十分ではあるが食事の介助を続け、1人で母に向き合っていたことや、兄が寛大な刑を望んでいることを考慮して、5年間の執行猶予期間を付けた」と説明した。

 「直ちに服役するのではありませんが、紙一重の判決でした。尊いお母さんの命を奪ったことを十分に反省し、新しい人生を生きてください。今日はあなたが生まれた日ですね」

 この日、63歳の誕生日を迎えた被告は小さく頭を下げ、ゆっくりと被告人席に戻っていった。