「母だって息子の自分に恥ずかしいところは見られたくないはず。暖かくなったら片付ければ大丈夫だろう」。そう思い、ベッドの近くに消臭剤を置いてごまかした。「寒い」とくり返す母のために暖房も入れた。体に着いたふん尿が体温を奪っているとは思いも寄らなかった。

 ▽ふん尿で汚れていく母の体に目を背け続けた

 2月23日、もはや自分の手に負えないと思った息子は行政の手を借りようと区役所に相談に行っている。だがその日は祝日で閉庁日だった。世間との関わりを絶って7年。平成から令和の世になり天皇誕生日が改められたことも知らなかったのだ。

 家に帰ってインターネットで地域の支援センターを調べると、民間の介護施設が併設されていると分かった。「相談したらそのままそこに入ってしまい、高額な費用を請求されるのではないか」。そう思い、頼るのを諦めたという。

 食べ物を口にできる間は生き延びられると信じ、耳をちぎったパンやレトルトのおかゆを母の口に運んだ。だが、4月に入るとそれもほとんど受け付けなくなった。母の体がたまったふん尿で次第に汚れていくのにうすうす気づいていたが、「もう少し暖かくなったらきれいにしてあげよう」と目を背け続けた。