507 それでも動く名無し 2023/05/02(火) 04:35:26.84 ID:DnYazKpg0
 3点リードの状態で迎えた8回裏、2アウトランナーなしの場面でベイスターズの新助っ人投手、トレバー・バウアーは中日ドラゴンズの3番打者、細川成也と対峙していた。
 細川にとっては古巣との対戦であるが、バウアーからすれば細川は別に元チームメイトでもなんでもないので、特に因縁を感じてはいなかった。
 カウントは2ストライク2ボール。バウアーの右腕から投げ放たれたノビのあるストレートが、山本祐大のキャッチャーミットに突き刺さる。
「ストライーク! バッターアウッ!」
 審判の手が上がったのを確認して、バウアーはお決まりのパフォーマンスを披露した。サムライが日本刀を腰の鞘に納める、あのポーズだ。
 レフトスタンドの横浜ファンが盛り上がる中、ブルペンで肩を作っていた山崎康晃は、忌々しげに舌打ちをした。

 3点差のまま迎えた9回の裏、中4日で105球を投げたバウアーに代わり守護神である山崎康晃がリリーフカーで登場する。ビジター球場でもヤスアキジャンプで盛り上がるファンの熱気にご満悦の様子だ。
 彼はこの後自分の身に降りかかる不幸について、まだ何も知らなかった。


 15分後。山崎は1つのアウトも取れないまま、満塁のピンチを迎えていた。
 とはいえ、相手バッターは立浪の愛人アキーノであり、ここは投手有利のバンテリンドームだ。この点差ならホームランさえ打たれなければ問題ないし、ホームランを打たれることはまずない。
 そう判断して、変化球を要求する山本のリードに首を振り、ゾーン内のストライクで勝負する。
 瞬間――快音が響き渡り、ライトスタンドの中日ファンたちが歓声を上げた。山崎がマウンドの上で、がっくりと膝をついたのは言うまでもない。だが、バウアーの怒りは彼の絶望を遥かに凌駕していた。


「Hey,Yasuaki」
 試合終了後、ベンチ裏で山崎はバウアーに呼び止められた。言葉こそ穏やかだが、こめかみには血管が浮き出ている。
「あ、バ、バウアー……さん」
「How dare you erase my win? How dare you lose with the closer leading by three?」
「す、すいません!」
 英語はわからないが、バウアーの怒りだけは理解できた山崎は、必死に平謝りをする。だが、言葉が通じないのはバウアーの側も同じであった。
「You criticized my performance, right? And yet, what was that performance when you appeared?」
「あ、えっと……ソ、ソーリー」
「Shut up, you son of a bitch!」
 バウアーの怒号と共に、DV疑惑も納得の鉄拳が山崎の顔面に炸裂する。
「リスペクト山崎オイ!」「あほちん顔してるぜ!」
 その様子を見て、通りすがりの大田と柴田が茶化した。