木の中に棲(す)みながらその木を食べているのだから、部屋の壁や天井を食べ尽くせば、棲む部屋がなくなってしまうのだ。そのため、シロアリは、今の住まいとは別の箇所の木材を食べて新しい部屋を作りながら、古い部屋は食べて片づけ、新居に移動しなければならない。

働きアリは自分の足で簡単に移動できる。しかし、女王アリはそうはいかない。巨大な腹部を持つ女王アリは、自力では移動できないのだ。女王アリは、働きアリたちに運んでもらわなければならないのである。

しかし、このとき女王アリに恐怖が訪れる。

働きアリが、女王アリを連れて移動するとは限らないのだ。

「女王」とは言っても、彼女に働きアリへの命令権はない。働きアリは、自らのために女王アリの世話をしている。女王アリを連れていくかどうかは、働きアリたちが判断するのだ。

女王にとって働きアリが働くマシンであるならば、働きアリたちにとって女王アリは、いわば卵を産むマシンでしかない。卵を産むことだけが、女王の価値なのだ。

シロアリの巣の中には、女王が死んだときのために副女王アリが控えている。

歳をとり、卵を産む能力の低くなった女王アリは、働きアリたちに見向きもされず、容赦なく捨てられていく。

もしかすると、女王の地位に君臨した女王アリは、働きアリを憐れんでみたことがあったかもしれない。しかし今や、働きアリは年老いた女王アリを憐れむことさえなく、置き去りにしていく。

彼女は歩くことはできない。誰かが運んでくれなければ移動できないのだ。しかし、もう誰も戻ってはこないだろう。もう誰も餌を運んでくることはないだろう。たくさんの子どもたちを産んだ思い出の詰まった古い部屋に、彼女だけが置き去りにされていく。

それが女王である彼女の最期なのである。
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