たとえば、2019年のクラシック戦線をともに戦ったヴェロックス。皐月賞2着、日本ダービー3着という結果で、馬自身も世代トップレベルだと自信を持って秋初戦の神戸新聞杯(2着)に臨んだわけですが、直線で前を行くサートゥルナーリアに文字通り子供扱いされるかの如く、とても楽にぶっちぎられた。圧倒的な強さを見せつけられて、絶対に逆転することのできない能力差を感じる負け方をして終わったんです。

で、次の菊花賞。とても具合がよくて、道中もいい雰囲気で競馬をしてきて、4コーナーでも「勝てる」と思えるだけの手応えがあった。にもかかわらず、直線は全然動けずに3着。調教過程、レースの内容、4コーナーの手応え──どれひとつを取っても動けない理由がなく、あらゆる方向から考えを巡らせても、確たる敗因がわかりませんでした。

 その後も、菊花賞と同じようなレースを繰り返すなかで、ようやく気付いたんです。「ああ、神戸新聞杯で心を折られていたんだな」と。彼が変わったのは、明らかに菊花賞からでしたからね。