翌日、大城はいつもより早くフィールドに出た。築地市場跡に3年前にできたジャイアンツフィールドは開閉式で気持ちいい汐風が吹いている。
この球場を経験できてよかった。これも野球を続けてきたご褒美かもしれない。

「大城さん、昨日、何泣いてたんすか」

 空気を読まないとまるで自分で決めているような岡本和真キャプテンのすこし甲高い声。
この飄々とした人柄にどれだけ助けられたか。低迷するチームの空気が重く沈んでいるときも岡本和真のこの誰とも等距離で接する性格は間違いなくチーム再生に不可欠だった。
盤石な4番は、打線をつくるだけでなくチームの背骨になる。

「うるせーな、それよりカズマ、ユニフォームにケチャップつけんな」

「あ、アメリカンドッグ7本食べちゃって。長嶋さんの記録まであと7本なんすよ。だから験担ぎ的な」

 通算437号を先月打って、王貞治と長嶋茂雄のあいだに割って入ろうとしているのにこの男は重圧というものを知らないのか。