米国人の「出社嫌い」突出 在宅勤務が定着、経済を圧迫

 コロナ禍発生から3年以上がたち、米国社会はほぼ正常化した。

 しかし、その間に在宅勤務がすっかり定着し、多くの会社員が職場に戻らない状態が続いている。米国人の「出社嫌い」は商業用不動産市場の悪化を招き、不動産融資を主要業務とする地方銀行の経営を圧迫。米景気の足を引っ張る一因になっている。

◇「通勤は無駄」
 「効率的に仕事ができる。通勤時間は無駄だ」。ニューヨーク市の金融機関で株式トレーダーをしている米国人男性(50)は、在宅勤務の利点をこう強調した。ぜんそくの持病もあり、コロナ禍以降は週5日家で働く。「ストレスが減り、『燃え尽き』状態にもならなくなった」といい、今後も在宅を続ける意向だ。

 米国人が在宅を好む背景には、長い通勤時間や利便性に欠ける公共交通機関、広い家などがあると指摘されている。同市郊外に住む50代の金融調査員の男性は、「家ならパソコンまで60秒」だが、オフィスだと片道2時間かかる上、交通費も出ないと説明。出社はノルマの週3日だけだ。

 在米日本企業も、現地社員の在宅志向に苦慮している。米南部にある日系メーカーのオフィスは、月曜と金曜はガラガラだ。日本人社員は「最低出社日数は週1〜2日。増やしたら現地社員は辞めてしまう」と嘆く。

 ◇低い出社率
 米不動産サービス大手ジョーンズ・ラング・ラサールが5月に公表した推計によると、コロナ前を100とした場合の米主要都市のオフィス出社率は40〜60%程度。これに対し、欧州の都市は65〜85%、東京は80%、北京やソウルは100%で、米国の低さが突出している。

 一方、4〜6月期のオフィス空室率は同社調べで、ニューヨークが16.7%、サンフランシスコが28.3%。ロンドンの9.5%、東京の4.8%、ソウルの2.0%を大きく上回る。

 ◇地銀に経営リスク
 米国人の出社嫌いは、経済に暗い影を落としている。企業がオフィスを縮小する動きが広がった結果、ビル所有者の賃料収入が減り、ローンを返済できなくなる事例が増えている。

 商業用不動産向け融資の主な担い手は、地域に密着した地銀だ。貸し倒れが増えれば、破綻のリスクが高まる。米銀大手ウェルズ・ファーゴは「質の悪い融資を多く抱える銀行にとっては難しい局面になり得る」(エコノミスト)と警鐘を鳴らしている。