1.2 LTCMの事例

 LTCMが崩壊寸前に陥った事例は、HLIsを相手として行なう取引が、個々の金融機関のみならず金融システム全体にもたらし得るリスクの種類を明確に示している。LTCMの規模、高レバレッジ、高水準の市場流動性への依拠、一部の市場・商品への集中、および極めて不透明な性質により、取引相手にとっては、取引により通常生じる信用リスクが拡大していた。これらのリスクの組合せはLTCMに特有のものであったかもしれないが、取引相手の信用リスク管理手続全般のあり方について重要な問題を幾つか提起するものでもある。

 明らかに、LTCMのケースにおいて最も注目すべき点は、特にオフバランスのエクスポージャーを含めた場合の、そのポジションの規模の大きさである。LTCMは、総資産額1,250億ドルの、帳簿上極めて多数の取引を行なっていたと伝えられる。想定元本ベースのオフバランス・ポジションは1兆ドルを優に超えていた。これらは主として、各種外国為替の先物契約、金利スワップ、およびその他の様々なOTCデリバティブのポジションであった(但し、これらの契約の多くは互いに相殺し合うものではあった)。

 LTCMは、規模自体の大きさに加え、極めて高いレバレッジを効かせていたように窺える。1998年初において、LTCMの総資産に対する自己資本の比率はおよそ25対1であった。勿論、これは極めて不完全なレバレッジの指標に過ぎない。LTCMのデリバティブ・ポートフォリオの影響は考慮されていないからである。ポートフォリオ全体のリスクを表わす何らかの数値と自己資本を比較した、より意味のある指標を用いた場合、LTCMの真のレバレッジがどの程度であったのかは定かでない。(LTCMは資本利益率を向上させるため、1997年末頃に相当額の自己資本を払い戻してギアリングを高めていたということも忘れてはならない。)


LTCM 25:1のレバレッジだった