病院に到着すると、医師から「即死でした」と宣告されました。私は泣き叫ぶことしかできませんでした。身元確認のため、二人の遺体の元へ案内されました。真菜の顔にかけられた布をめくると、あんなに美しかった真菜の顔は、傷だらけで、氷のように冷たくなっていました。次に莉子の顔を見ようとすると、看護師が気まずそうに、「お子様のお顔は見ないほうが良いと思います」と言ってきました。顔にかけられた布がうっすらと血で染まっており、状況を察しました。小さな手を握っても握り返してくれることはなく、生まれたときの温かい手、いつも3人で繋いでいた手とあまりに対照的で、底知れぬ絶望を感じました。
 翌日、警察署へ運ばれた二人の元へ赴くと、葬儀屋から、莉子の顔の修復作業をするかどうか尋ねられました。できれば修復してあげたかったのですが、損傷が酷いので3日間も離れ離れになると言われ、断腸の思いで断りました。幼い3歳の娘を一人にするなんて可哀想で、一緒に居てあげたいとしか考えられませんでした。
 そして二人を家に送ってもらい、自宅に並べられた2つの棺の蓋を交互に開けては、ずっと語りかけました。真菜には、出会ったときの話から始まり、どれだけ愛しているのか、感謝しているのかを。莉子には、私達の子供に生まれてきてくれたこと、沢山の幸せをくれたことに、ありがとうと。二度と出来ないと思い、大好きだったノンタンの絵本を、何度も読み聞かせしました。眠れるはずもなく、深夜に「ちゃんと莉子の顔を見てお別れを言いたい」思ってしまい、顔の布をめくろうとしました。しかし、少しめくっただけで分かりました。莉子の顔は完全に陥没していました。全部見たら私の精神が壊れてしまうと察知し、諦めました。最後のお別れなのに、娘の顔すら見ることが出来ない無念さは計り知れないものでした。