生成AIで岸田首相の偽動画、SNSで拡散…専門家「印象操作という点で悪質」
2023/11/04 05:00

 生成AI(人工知能)を利用して作られた岸田首相の偽動画がSNS上で拡散している。首相にそっくりな声で卑わいな発言をさせたもので、日本テレビのニュース番組のロゴなども表示されている。海外では、政治家の偽動画が世論操作に悪用される事態も起きていて、日本でも今後、対策を求める声が高まりそうだ。

ニコニコ動画に投稿された岸田首相の偽動画(ニコニコ動画から)=画像を一部修整しています
https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/11/20231104-OYT1I50018-1.jpg

 偽動画では、背広姿の首相が画面中央で視聴者に向かって語りかけている。日本テレビの番組ロゴのほか、「BREAKING NEWS」などのテロップが表示されており、首相のオンライン記者会見を報じる番組を悪用して作られたとみられる。

 読売新聞の取材に対し、大阪府の男性(25)が生成AIなどを使って偽動画を制作し投稿したことを認め、「面白くて作った」と話した。日本テレビは「悪用されたことは到底許すことはできない。必要に応じてしかるべき対応をとる」などとコメントした。

 偽動画は2日、X(旧ツイッター)に投稿され、3日時点で232万回以上閲覧されている。

一気に拡散
 問題の偽動画では、背広を着てネクタイを締めた岸田首相が画面中央で視聴者に語りかけている様子が収められている。

 画面の右上には、日本テレビのニュース専門チャンネル「日テレNEWS24」のロゴが入っており、同番組で実際に使用されているものに似せたテロップで、「岸田首相 『確かにいたしました』」などと表示されている。「LIVE」や「BREAKING NEWS」という文字もあり、岸田首相の話が緊急速報として生中継されているかのような印象を与える。

 問題の偽動画は今夏、動画投稿サイト「ニコニコ動画」などに投稿された。3分43秒のうち、30秒分を抜粋したものが今月2日、X(旧ツイッター)に投稿され、一気に230万回以上閲覧された。投稿を見た他のユーザーからは、「AI普及の弊害」「悪意のあるフェイク動画」などの批判も書き込まれている。

短時間で
 偽動画を制作して投稿したのは大阪府の男性(25)だ。

 男性によると、ネット上で公開されている首相の記者会見や自民党大会の演説などの動画から、首相の音声をAIに学習させて、偽音声を用意した。首相のオンライン記者会見を伝えた日本テレビのニュース番組を利用し、自身の声を首相の偽音声に変換させる機能を使って、わいせつな発言を吹き込んだ。

 そして、セリフに合うように、首相の口の動きを加工したり、テロップを作ったりして、1時間足らずで作り上げたという。

 男性は昨年から、岸田首相のほか、安倍元首相などの偽動画を制作・投稿し始めた。理由について、「総理大臣は、誰でも知っている象徴的な存在だから、注目を集めやすい」と説明。「混乱させる意図はなく、『笑ってほしい』という目的で作った。風刺のようなもの」とした。

 日本テレビは「日本テレビの放送、番組ロゴをこのようなフェイク動画に悪用されたことは、到底許すことはできない」として、必要に応じてしかるべき対応をとるとしている。