https://www.nise.go.jp/cms/6,4134,13,257.html
 2.バロン・コーエンの「自閉症は極端な男性型脳」仮説

 英国の自閉症研究者であるバロン・コーエンは「自閉症は極度な男性型脳(EMB : extreme male brain)」仮説を提唱しています。
 バロン・コーエンは、特に脳の「システム化機能」と「共感機能」に注目して、それぞれに関する質問紙を開発し「システム化指数(SQ : systemizing quotient)」と「共感指数(EQ : empathy quotient)」を多くの男女を対象として調べています(これらの質問紙と指数については参考資料1を参照のこと)。さらに自閉症の人を対象にこれらの指数を出して、定型発達の人たちと比較した結果を示しています(引用文献1)。
 そこでは、女性はSQが相対的に低くEQが相対的に高い傾向を示し、システム化機能より共感機能が優位であることが示唆されています。一方、男性はSQが相対的に高くEQが相対的に低い傾向を示し、共感機能よりシステム化機能が優位であることが示唆されています。
 そしてアスペルガー症候群・高機能自閉症は、男性よりさらにシステム化機能が優位である人が多いとしています。このことから、バロン・コーエンは「自閉症は自閉症は極度な男性型脳を持っている」との仮説を立てています。そして自閉症が男性に多いことと関係があることを示唆しています。
 この仮説は非常に興味深いものですが、脳及び脳機能の男女差についてはなお議論のある所見を引用していること、自閉症が男性に多いことを説明するためのものではなくその証拠が十分でないことは押さえておくことが必要でしょう。
 現在、自閉症に対する薬物療法は基本的に対症療法です。すなわち、自閉症にしばしばみられる二次障害、すなわちパニックといわれる情動興奮、不安、不眠、抑うつ気分等に対する向精神薬や、てんかん発作が随伴する場合に用いられる抗けいれん薬等が用いられています。
 一方、自閉症を治癒させる薬物や、自閉症の中核的な症状である対社会性の障害やコミュニケーションの障害、限定された関心等に明らかな効果を持つ薬剤は開発されていません。これまでに、自閉症の症状そのものに有効な薬剤ではないか、としていくつか薬物が候補としてあげられ、現在検討中の薬物もありますが、客観的な有効性の検定を通過し科学的に有効性が証明された薬物はありません。