──ご自分が登った山を何かしらの方法で記録したい、自分のものにしたいという願望はありますか?

山野井 あまりないです。自分の書いた文にもさほど思い入れはないですし、何かを残すということに興味がない。
山での体験を発信すると何か良いことが生じるの?
例えば、発信することで有名になったり、お金が発生したりするのかもしれないけれど、有名になると登っていくうえではかえってマイナス面のほうが多いんじゃないかとは昔から思っていた気がします。
発信することで指の力が1.5倍になるというならいくらでも発信しますよ(笑)。随分いろんな媒体に出ちゃいましたが。

──最近では多くの人が登山の写真をInstagramなどのSNSで発信しています。

山野井 それはなんで載せるんだろう? 
それこそ、昔よくギャチュン・カンで凍傷になりながら生還した話をみんな聞きたがった。
写真を見せてくれだとか言われて人に説明しすぎちゃうと、強烈なギャチュン・カンの良い思い出がどんどんなくなっちゃう気がしてつらい(笑)。
せっかくの大切な思い出だから自分だけのものにしておきたい。
まあそれは個人の性格にもよると思いますが、発信しても思い出が失われない、むしろ膨らんでいく人もいるのかもしれないけれど、僕の場合はたぶん共有したり発信することで思い出がどんどんちっちゃくなって、小さな登山になってしまうような感じがしてしまう。
だからあまり発信したいとは思わない。