勝利まで、あと1人だった。
九回を任された岩崎が冷や汗を流しながら、何とか逃げ切ろうか、というところだった。
ところが、信じられないプレーが起こった。

「木浪の判断ちゃう、サードの指示やんか。ボール追いかけてるやつが、そんなん、走者見られへんねんから」

岡田監督が語気を強めた。
5-3の九回2死満塁で代打・福永の左翼へ抜けようかという打球を木浪が逆シングルで止めた。そこまではよかった。
木浪は三塁・佐藤輝へと送球した。二走・尾田がオーバーランをしたと思った。
しかし、実際には尾田は三塁を蹴って本塁に突入しており、佐藤輝はヘッドスライディングでの生還を見ているだけ。
まさかの2点内野安打としてしまった。

「見えてなかったというのと、見てなかったというのは違いがあるよな。野球勘やけどな、それはもう」