静岡刑務所の三悪人 単行本 – 2006/11/1 戸塚 宏 (著)

Аmаzоn力ス夕マレビュ一
5つ星のうち1.0 著者の意図とは全く別の意味で面白い本
2011年11月19日に日本でレビュー済み
訓練生への傷害致死事件で有罪判決を受け、静岡刑務所で懲役6年の刑に服した戸塚宏が、出所後に看守たちへの怒りをぶちまけた本。著者の狙いは日本の刑務所における人権侵害の実態を暴露して糾弾することにあるが、そういった本来の意図とは全く別の意味で面白い読み物となっている。なにしろ言っていることが矛盾だらけで支離滅裂なのだ。

戸塚は刑務所の看守を

「およそ法の概念から外れたとんでもないことをやっています」(p.41)

「人権という概念をしっかり勉強してもらいたいものです」(p.49)

「民主主義がわかっていない」(p.101)

などと批判しているが、どれもこれも戸塚自身に最も当てはまることばかり。「お前が言うな」という突っ込み待ちのギャグではなく、当人は大真面目で言っているのである。訓練生の人権をさんざん踏みにじってきた男が、人権蹂躙される立場になるとニワカ人権派に早変わり。「建前は矯正教育ということですが、やってることは圧政です」(p.87)って、そりゃ戸塚ヨットスクールのことだろうよ。

このほか「甘やかされて育った連中は、成人になってからも反省の能力がついていない」「弱ったことに、『反省』という言葉を知らない人たちが多数いるのです」(p.171-172)とも、戸塚は書いている。自己紹介乙、と言う他ない。

また、戸塚は静岡刑務所で受けた扱いを「いじめ」(p.80)と呼んで糾弾しつつ、刑務所から離れた文脈では突如として宗旨を変え、

「いじめられると、怒り、悲しみ、不安、といった不快感が生じますが、その不快感が子どもを行動にかりたて、いじめられっ子を進歩させます」「いじめられた側は、いじめた側よりもずっと大きな利益を得るわけです」(p.173)

「常々私が言っていることのひとつに、『強いというのは正しい』という厳然たる法則があります。力というのは正義なのです」(p.182)

と強者による弱者へのいじめを肯定している。おいおい、それなら静岡刑務所の看守からいじめてもらったことに感謝しろよ。力は正義なんだろ?

以上、本書の主張を要約すると「俺(戸塚)がやる人権侵害は正義だが、俺に対する人権侵害は許さん」ということに尽きる。実に本書こそは、おのれを棚に上げて二重基準を弄する「反人権派」の滑稽さを如実に示す一冊といえよう。
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