日本は東欧レベルやからな

20世紀末、ドイツ連邦裁判所は男女平等の考え方の根底に関わる判決を下しました。とある飲食店が女性のみを対象に価格を半額とするサービス「レディースデー」を実施していたところ、男性客がこれを不当な性差別であるとして訴訟を起こしました。連邦裁判所は1995年、この訴えを認め、レディースデーは違法であるとの判決を下しました。
この判決は、単に一つの商業サービスの是非を問うだけでなく、社会における男女平等の概念そのものに大きな影響を与えました。裁判所は、性別に基づく価格差別は、たとえそれが女性に有利なものであっても、憲法で保障された平等原則に反するとの見解を示しました。
この判決以降、ドイツでは多くの企業がレディースデーのような性別に基づくサービスを見直さざるを得なくなりました。同時に、この判決は他の欧州諸国にも影響を与え、男女平等に関する法的解釈の転換点となりました。例えば、オーストリアでは2011年に同様の判決が下されました。ウィーンのナイトクラブが女性客のみに入場料を無料にするサービスを提供していたところ、男性客がこれを差別であるとして訴訟を起こし、最終的に裁判所はこのサービスを違法と判断しました。
一方で、フランスやイタリアなど一部の国々では、その後もレディースデーのようなサービスが広く行われ続けました。これらの国々では、こうしたサービスは女性の社会参加を促進し、男女間の経済的格差を縮小する一助となるという見方が根強く残っていた為です。
しかし、EUレベルでの男女平等に関する法整備が進むにつれ、こうした国々でも徐々に変化の兆しが見られるようになってきました。フランスやイタリアの態度は強い批判に晒され、2010年代以降、多くの企業が自主的にこうしたサービスを廃止するようになりました。
スペインでは、2018年にバルセロナの有名なナイトクラブが、女性客に対する入場料割引を廃止すると発表し、大きな話題となりました。このクラブは「男女平等を真に尊重するために、すべての顧客を同等に扱う」と声明を出しました。この決定は、スペイン国内の他の飲食店やエンターテインメント施設にも大きな影響を与え、多くの企業が同様の方針転換を行いました。
オランダでは、2019年に政府が性別に基づく価格差別を明確に禁止する法律を制定しました。この法律は、レディースデーのような特定の性別を優遇するサービスだけでなく、男性向け理髪店と女性向け美容院の価格差なども対象としており、より包括的な性別平等を目指すものでした。
一方で、このような変化に対する反発も見られました。特に、女性の社会進出が遅れている地域では、レディースデーのようなサービスが女性の経済的自立を促進する重要な役割を果たしているという意見が根強く残っていました。例えば、ポーランドの一部の都市では、地元の女性団体がレディースデーの存続を求めて抗議活動を行いました。
このような状況の中、EUは2020年に新たな男女平等戦略を発表し、加盟国に対してより厳格な性差別禁止法の導入を求めました。この戦略では、性別に基づく価格差別を含むあらゆる形態の性差別を撲滅することが目標として掲げられました。
現在、EU全体としては、レディースデーのような性別に基づくサービスは徐々に姿を消しつつあります。しかし、その実施状況は国や地域によってまだ差があるのが実情です。
例えば、北欧諸国では、こうしたサービスはほぼ完全に廃止されています。デンマークのコペンハーゲンでは、2021年に市内のすべてのナイトクラブが共同で「性別に関係なく全ての人を平等に扱う」という宣言を発表し、大きな注目を集めました。
一方、東欧諸国の一部では、まだレディースデーのようなサービスが残っています。例えば、ブルガリアのソフィアでは、週に一度女性客限定の割引サービスを提供しているレストランやバーが少なからず存在します。しかし、これらの国々でも、徐々に変化の兆しが見られ始めています。
興味深いのは、こうした変化が単に法的規制によってもたらされたものではなく、社会の意識の変化を反映したものでもあるという点です。多くの若い世代、特にミレニアル世代やZ世代は、性別に基づく優遇を「逆差別」として捉える傾向が強く、こうしたサービスに対して否定的な見方をしています。
また、LGBTQコミュニティからの声も、この変化を後押ししました。従来の「女性限定」サービスは、トランスジェンダーの人々や非バイナリーの人々を排除してしまう可能性があるという指摘がなされ、より包括的なアプローチが求められるようになりました。