「直美」と呼ばれる若手の医師が医療業界で問題になっている。医師国家試験合格者は2年間の研修を受けた後、専攻の診療科に進むのが通例だが、美容外科クリニックに直接就職するケースが年200人出ているという。なぜなのか。医師の筒井冨美さんは「一般病院の医師の報酬や待遇が悪く、やりがいも失っている人が増えている。今後、女医が増えるのが確実な中、厚労省は早急に対策を立てるべき」という――。

■厚労省を悩ませる「直美(ちょくび)医師」の正体

 「直美(ちょくび)」と呼ばれる若手医師が厚生労働省や医大幹部たちを悩ませている。

 医学部を卒業し医師国家試験に合格した人は通常、法律で義務付けられている2年間の初期(総合)研修を修了した後、眼科・外科・精神科など19の専攻医コースのいずれかを選択して3~5年間のトレーニングを受け、専門医資格(眼科専門医など)を取得する。この流れが、医師が一人前になるためのスタンダードである。

 ところが、2018年度から始まった新専門医制度、そして2020年からのコロナ禍を経て、若手医師の意識は大きく変化しつつある。

 「初期研修終了後に直接美容外科クリニックに就職」する医師が急増している。これが「直美(ちょくび)」と呼ばれており、「年間200人程度」と、ある医大教授がインタビューで回答している。

 医師偏在是正を目的に、2016年に東北医科薬科大、2017年に国際医療福祉大と医学部新設が相次いだが、これら医大2校分(各1学年約100人)に相当する人数の人材が美容分野に“流出”する事態となっているのだ。

 医学部生を医師にするまでにかかるコスト(施設費や人件費などを含む)は1人当たり約1億円と言われている。そこには当然、国からの支援も含まれている。美容外科クリニックは病気を治すのが主眼の機関ではない。その意味で、厚労省や医大幹部は大きな損失を毎年していることになる。

■若手のみならず医大教授も美容転職

 美容外科を全国展開する「TCB東京中央美容外科」では2022年医師採用実績119人と公表されている。この数字は、大学病院研修医採用数ベスト3の東大病院(97人)、東京医科歯科大(94人)、京大(75人)を軽く超えている。

 また、若手医師のみならず心臓外科医や脳外科医など、以前は「花形」「院内ヒエラルキーの頂点」と呼ばれたベテラン医師の転職も目立つ。医大外科主任教授が大手美容外科に転職するケースも出現した。

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