クロワッサン症候群
人生の選択肢としての結婚を拒絶したが、結婚適齢期・出産適齢期を越え、自らの生き方に自信喪失し、焦りと絶望を感じている中年女性の心理的葛藤の形容

バブル期を迎えて経済的に自立が可能となった女性たちは、母親世代の生き方を家庭に縛られるだけの従属的生活として否定的に捉えた。彼女たちは、そんな利他的な母親と同じ道を歩むという選択に強い抵抗を持ち、結婚そのものを拒否するという新しい生き方を模索するようになっていった。
雑誌『クロワッサン』はそのような女性たちに"自由で前衛的なシングルライフ"という新しいライフスタイルを提案した。実際は、自立したシングルライフを謳歌する女性はごく一部であったにもかかわらず、「クロワッサン」はこの新しいライフスタイルを"女性の誰もが実現できる"と持て囃した。
メディアを通して提案される彼女たちの生き様は、彼女らの生活を1つのストーリーに沿って再構成し、それに従って現実から一部を切り取ったものに過ぎなかった。その事実に気が付いた段階では、同誌の愛読者たちの多くは結婚、出産適齢期を過ぎており、同世代の男性が結婚を忌避しない年下の年齢層の女性と結婚するのを尻目に、彼女たちにはもはやなす術はなかった。