広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが、たのしくくらしていた。
みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。およぐのは、だれよりもはやかった。
名前は、スイミー。

ある日、1おそろしいまぐろが、おなかをすかせて、すごいはやさでミサイルみたいにつっこんできた。
一口で、まぐろは、小さな赤い魚たちを、一ぴきのこらずのみこんだ。
にげたのはスイミーだけ。  スイミーはおよいだ、くらい海のそこを。こわかった。さびしかった。とてもかなしかった。

けれど、海には、すばらしいものがいっぱいあった。2おもしろいものを見るたびに、スイミーは、だんだん元気をとりもどした。
にじ色のゼリーのようなクラゲ。
水中ブルド-ザーみたいないせえび。
見たこともない魚たち。見えない糸でひっぱられている。
ドロップみたいな岩から生えている、こんぶやわかめの林。
うなぎ。かおを見るころには、しっぽをわすれているほど長い。
そして、風にゆれるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく。

そのとき、岩かげにスイミーは見つけた、スイミーのとそっくりの、小さな魚のきょうだいたちを。
スイミーは言った。
「出てこいよ。みんなであそぼう。おもしろいものがいっぱいだよ。」
小さな赤い魚たちは、こたえた。
「だめだよ。大きな魚にたべられてしまうよ。」
「だけど、いつまでもそこにじっとしているわけにはいかないよ。なんとかかんがえなくちゃ。」
 スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。

それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。
「そうだ。みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
スイミーは教えた。けっして、はなればなれにならないこと。みんな、もちばをまもること。
みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」  あさのつめたい水の中を、ひるのかがやく光の中を、みんなはおよぎ、大きな魚をおい出した。