――ドラマでは、『源氏物語』のような貴公子と姫の恋愛模様も描かれましたね。

 脚本家や制作陣は、ドラマは面白くなければいけないと思っていますが、私は面白いかどうかではなくて、史実に合っているかどうかをチェックするのが仕事です。舞台は1000年前の宮中の話ですが、実は道長や朝廷関連の史料(古記録)はたくさん残っているんです。その反面、紫式部関連の信頼できる史料は少なく、特に宮中に仕える前の史料は全くなく、どうしようもない。紫式部の歴史的評価は、歴史学界では「最高の文学を書いた人」くらいしかできないのではないでしょうか。紫式部の生涯を真面目に研究している歴史学者はいないと思います。

 正解がないところを面白く創作するのは構わないとはいえ、時代考証を引き受けて全体のあらすじを最初見た時に、紫式部と道長が幼なじみで恋仲になると知ってがくぜんとしました。でも、すでに制作発表時に公表していることは、もう変えられません。私は自分の頭の中で、ドラマを「政治パート」と「恋愛パート」に分け、政治パートは「リアル(現実)パート」、恋愛パートは「フィクション(架空)パート」と割り切って考えることにしました。