「消えたデータ」
ある日、フリーランスのデザイナーである山下は大手企業のプロジェクトを任され、締め切りに追われながらも必死に作業をしていた。膨大なデータとアイデアを詰め込んだデザインファイルは、彼の数か月間の努力の結晶だ。
ある夜、締め切り前日になって山下はついに完成を迎えた。保存ボタンを押し、満足げに画面を見つめたあと、パソコンをシャットダウンした。
翌朝、確認のためにパソコンを立ち上げた彼は、目を疑った。昨夜保存したはずのデータが、どこにも見当たらないのだ。
「そんなはずはない……!」
必死にファイルを探すが、ゴミ箱の中にもクラウドのバックアップにも、どこにも存在しない。奇妙なことに、作業フォルダごと消えているのだ。
焦る山下は復元ソフトを使って探そうとしたが、その途中でメール通知が届いた。送信者は「未来の山下」――妙な名前のアドレスだ。
「どうせまた保存を忘れたんだろう?君の怠慢が原因だ」
山下は冷や汗をかいた。このメールは何だ?冗談にしては悪質すぎる。何よりも、「未来の山下」とはどういうことだ?
その後も、データを探そうとするたびに「未来の山下」からメールが届いた。
「ほら見ろ、また焦ってる」「締め切りまで時間がないぞ」
まるで、彼の状況をリアルタイムで知っているかのようだ。
パニックに陥った山下は、最後の手段としてパソコンを初期化しようとした。しかし、初期化のボタンをクリックした瞬間、画面が真っ暗になり、画面に奇妙なメッセージが表示された。
「時間を巻き戻してやる。ただし、次は失敗するな」
次の瞬間、山下はハッと目を覚ました。時計を見ると、昨日の深夜に戻っている。
「あれは夢だったのか?」
恐る恐るパソコンを開くと、消えたデータがそこにあった。安堵する山下。しかし、その時、ふと気づいた。デスクの上に置かれたUSBメモリに、彼の記憶にないラベルが貼られている。
「次はない」
山下はそのUSBを二度と開くことはなかったが、それ以来、データ保存を怠ることもなくなった。彼にとって、それは教訓というにはあまりに奇妙な出来事だった。