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「日本企業の内部留保は多すぎる、もっと投資に回すべきだ」という批判は、長らく経済界で繰り返されてきました。しかし、この議論にはいくつかの誤解が含まれています。特に、内部留保の全てが現金であるというイメージは、実態とは大きくかけ離れています。
まず、内部留保とは、企業が稼いだ利益のうち、配当や税金として支払われずに企業内に留保された資金の総称です。この中には、現金・預金のほか、土地、建物、機械設備、有価証券、研究開発費、繰延税金資産など、さまざまな資産が含まれます。
統計的に見ると、内部留保に占める現金の割合は、一般的に**2割程度**と言われています。つまり、内部留保の大部分は、事業活動に必要な資産や将来の投資のための準備金として、すでに活用されているのです。

なぜ「内部留保=現金」という誤解が生まれるのか?
この誤解が生まれる背景には、以下の要因が考えられます。

* メディアの報道: 内部留保に関する報道では、「現預金」の残高が強調されがちであり、その結果、一般の読者は「内部留保=現金」と捉えやすい。
* 企業会計の複雑さ: 内部留保は、企業のバランスシート(貸借対照表)の「純資産」に計上されますが、具体的な内訳は財務諸表の注記を確認する必要があり、理解が難しい。
* 企業への不信感: 長期デフレや経済停滞に対する不満が、「企業が利益を抱え込んでいる」という印象を助長し、「内部留保=現金の塊」というイメージにつながりやすい。

確かに、現金を多く保有している企業は存在します。しかし、その多くは、将来の事業拡大や設備投資、M&A(合併・買収)などの機会を伺っている、あるいは不況に備えている場合が多いです。
さらに、中小企業や赤字企業では、むしろ資金繰りに苦慮しているケースも少なくありません。また、事業規模が大きくなるほど、運転資金や設備投資に必要な資金も増えるため、現金の保有額も多くなる傾向があります。
つまり、企業が現金を保有していること自体は、必ずしも悪いことではありません。むしろ、安定した事業運営や将来の成長のために不可欠な要素と言えるでしょう。