「日本に恋しちゃった」オランダ人女性、「苦いのは嫌」なはずが…今や茶房の若女将に

美ヶ原温泉「翔峰」のオランダ人若女将 ノエル・ライカーズさん 31
 湯飲みに入れた玉露の茶葉に低温の湯を注いで蓋をし、3分後に蓋をわずかにずらして空の湯飲みにしずくを垂らす。抽出されるのはエスプレッソのようにほんの少量だが、コクととろみが口の中に広がる。「蓋の隙間からポタポタ落とすので『しずく茶』と言うんです」

1991年、オランダ生まれ。松本深志高校に留学後、母国のライデン大学、大学院で社会学や日本語などを学んだ。翻訳の仕事や、ロンドンのホテル勤務などを経て、アルピコホールディングスに採用された。好きな日本食は、すしとすき焼き。
茶房IPPUKUで提供される玉露のしずく茶と塩ようかん
 長野県松本市里山辺の旅館「美ヶ原温泉  翔峰しょうほう 」の一角に4月にオープンした「茶房IPPUKU」のカウンターに立ち、宿泊客限定で極上の一杯を振る舞っている。


 初来日は16歳。母国・オランダで小学生の頃、日本のアニメやゲームがはやったのをきっかけに、日本に関心を持った。日本語は全く話せなかったが、松本深志高校に1年間留学した。神社巡りで歴史を感じたり、母国にはない雄大な山々に圧倒されたりするうちに「日本に恋しちゃった」。

 帰国して大学院を修了後、再び日本で暮らそうと就職先を探したが不採用に。一度は夢を諦め、オランダやイギリスで働いた。だが、長期旅行で再び日本を訪れた2016年、アルピコホールディングス(松本市)がインバウンド推進室を設立したと知人から聞き、私服にスニーカーで急きょ面接を受けに行った。

 念願かなって17年に入社し、商品開発や観光地のプロモーションなどを担当した。そして昨年12月、日本文化や歴史への造詣の深さや敬愛の念が買われ、同社系列の翔峰の「若 女将おかみ 」に抜てきされた。

 茶房でのお茶の提供を任されたものの日本茶の知識は皆無。「苦いのが嫌で、毎日飲むのはジュース」と言うほどの甘党だったが、専門書を読みあさったり日本茶のインストラクターから指導を受けたりして猛勉強した。

 「うまくいれられるか」「質問にきちんと答えられるか」。オープン前、プレッシャーで眠れない夜は、自宅で練習を繰り返した。女将の内城良子さん(62)は「見えないところで努力し、日本人が知らないことまで吸収しようとしている」と脱帽する。

 日本人客には日本の魅力を再発見してもらえるよう、そしていつか外国人客をもてなす際には、茶房が「日本を体感できる場所」になるよう修業を続けるつもりだ。「日本に対する私の愛を、世界中の人たちとシェアしたい」(岡部哲也)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220606-OYT1T50053/