甲子園で輝くのは球児だけではない。その背中を押すアルプススタンドの存在も戦いに彩りを添える。春夏連覇を目指して8強進出を果たした大阪桐蔭には、野球部に匹敵する名門の吹奏楽部の存在がある。

 16日の3回戦の二松学舎大付(東東京)戦でも、ブラスバンドの演奏は鳴り響いた。味方の攻撃中は高らかに、リズミカルに音色を奏でる。

 技術のみならず、マナーも反応速度も目を見張る。吹奏楽部の梅田隆司監督は常に半身で構えて、グラウンドの状況を把握しながら指揮する。相手の捕手が投手と話すためにマウンドに向かうと、「シー」と人さし指を口に当てるジェスチャーをした。すると、部員たちは聞こえるか、聞こえないかくらいの絶妙な音量に落として演奏を続けた。

 捕手がホームに戻れば一気に音量を戻す。相手がさらに伝令を出せば、今度はきっちりと演奏をストップする。アルプススタンドから柵を隔てた内野席を見ると、グラウンドではなくブラスバンドの様子を熱心に撮影する人がいた。

 大阪桐蔭の吹奏楽部は約170人いるが、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、今大会はアルプススタンドで演奏できるのが50人以内に限られる。梅田監督は「全体の代表だからな」と生徒たちに言い聞かせているそうだ。

 スーザフォンを演奏していた山岸千夏さん(3年)は阪神甲子園球場がある兵庫県西宮市出身。子供のころから甲子園に観戦に訪れ、大阪桐蔭の応援に感動した。「アルプスでブラスバンドの演奏をしたい」と入学した。

 ところが、新型コロナのために、2020年は夏の甲子園が中止となった。21年も大会途中からブラスバンドの演奏ができなくなり、山岸さんは参加できなかった。そのため、今回が念願の夏の甲子園「初出場」だった。「本当に感無量。すごく楽しいです」と笑顔がはじけた。

 見事な演奏ができるのも、厳しい鍛錬があるからだ。山岸さんは「私たちはたくさんの曲目を演奏します。本当に短期間で楽譜を『バッ!』て見て、勉強しないといけない。昔の私なら絶対無理と思っていたでしょうが、人間できるようになるものなんですね」と、しみじみと話す。

 今回は実に30曲以上を用意した。実は2回戦は約20曲を準備していたが、大阪桐蔭の攻撃時間が長くなり、使い切ってしまった。そこで、梅田監督は「同じ曲を何回もやっては、演奏しているこちらも、聞いてもらっている人たちもつまらない」と考え、一気に曲目を増やしたそうだ。ファンサービスにも熱心である。

 今回、大阪桐蔭はNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のメインテーマ曲を演奏している。すると、「鎌倉殿の13人」の音楽担当であるエバン・コールさんが「甲子園での、大阪桐蔭の皆さん、#鎌倉殿の13人 テーマ曲演奏していただきありがとうございました!音楽的視点でいうと、ちょうど打ったタイミングが曲のブレイクのところで拍頭なので、非常に気持ちいいところです!今度はパーカッションの譜面に金属バットも加えてみたいですね。」とツイート。2500件以上のリツイート、1万件以上の「いいね」がつくなど、大きな反響を呼んでいる。

 大阪桐蔭は18日、準々決勝第3試合で下関国際(山口)と対戦する。好プレーと好演奏のハーモニーも注目される。

https://mainichi.jp/articles/20220818/k00/00m/050/126000c.amp

ブラバン30曲も用意してたんか