監督就任記者会見、激励会の後、稲尾はコーチ陣を引き連れて銀座に繰り出した。「一緒に行っていいですか?」と言ったのが、主力打者の落合博満だった。

 落合は酒の席で

「監督は管理野球ですか?」と聞いた。

「管理野球って何だ?」

「西武の広岡達朗監督がやっている野球です」

「俺は西鉄ライオンズ育ちだから、そんな野球はしない」

 今度は稲尾が落合に聞いた。

「これに勝てば優勝という試合で9回の1アウト1塁、点が入ればサヨナラだ。お前はどうする?」

「そりゃバントでしょう、1点入れれば勝つんだから」

 落合はしれっと言ってのけた。

 この会話で、稲尾は中西太、豊田泰光と同じ匂いを感じ、「この男は使える」と思ったという。そして落合は稲尾をボスとして終生慕うことになるのだ。

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