もちろん、トミー・ジョン手術に対する信頼度が高いからこそ、決断に踏み切る人が多いと言える。また、古島医師は、肩の故障に比べれば肘の手術から復帰する可能性は高いとも話す。ここで藪氏がぶつけたのは、誰もが気になる疑問だ。

「トミー・ジョン手術って何回までできるんですか?」

 これに古島医師は「うちのやり方なら、何回でも大丈夫ですよ」と即答。そして「館山さんは3回やりましたよ」と付け加えた。

古島医師「館山さんは靱帯だけじゃなくて、屈筋腱断裂もあったので3回になってしまいました。復帰したのは、かなりレアなケースだったと思います。それでも同じところに3回移植しました」

藪氏「1回目より2回目、2回目より3回目の方がリハビリ期間は少しずつ長くなっていくものなのですか?」

古島医師「いや、同じですね。館山さんの場合は1回目の手術をして1年後に復帰して、それから7年くらい状態は良かった。その間に60勝くらい挙げていたんですね。次に怪我した時は、屈筋腱と骨の繋がっている部分が、骨ごと剥がれた感じになってしまったんですよ。珍しいことですけど。それで剥がれた部分をアンカー3本で骨に止めました。普通は次第に骨と腱がくっつくので、それで大丈夫なんですけど、1軍復帰直前の2軍戦でまた痛みが出てしまった。同じところが剥がれてしまったんですね。なので、今度はアンカーを5本使ってガッチリ留めました。それでもリハビリ期間は全部同じでしたね」

藪氏「同じですか」

古島医師「回数を重ねると、もっと(時間が)かかるというわけではないですね。アメリカだと復帰まで14~16か月と言いますが、私の病院では、プロの選手は1年で1軍の公式戦で投げられるイメージです。アメリカの場合は、骨に穴を開けて通した靱帯を固定するのに、靱帯同士をただ糸で縫うだけなんですね。骨に開いた穴には靱帯が通っているだけなので、靱帯と骨が融合するまでには時間がかかる。うちの場合は、穴に靱帯を通した後に骨片を差し込んで固定します。すると、その骨片と骨が1、2か月で融合するので、最初の固定力が高まります。手術から8か月くらいで全力投球に持っていき、まず2か月は2軍で調整し、次の2か月で実戦を経て、1軍復帰というパターンですね」

 もちろん、靭帯損傷という大怪我を何度も負わないに越したことはないが、手術後に同じ負傷を重ねたからといって、復帰への道が閉ざされることはないというのだ。

 一方で、古島医師は靭帯ではなくて人工物を使って負傷箇所の修復を図ることにはリスクがあると指摘する。藪氏の「自分の靭帯の代わりに人工物、例えばワイヤーシリコンなどを使って、リハビリ期間を少しでも短くするようなこともやっていると思うんですけど……」という疑問に対して、古島医師は「補強みたいな感じで使うこともありますが……」と前置きした上でこう続けた。

「自分の関節の動くところに固い人工物を入れたら、どこかしら摩耗してきますよね。昔、膝の靱帯の治療には人工の靱帯を使うこともありました。それが今では、もう全く使われなくなってしまった。爆発的に流行って4、5年くらい使われていた時期がありましたが、やっぱりどんどん骨の穴が削れて大きくなってしまう。人工靱帯は固いけれど伸び縮みもしないので、長い年月が経つと骨がこすれて削れてしまいます。だから、軽い靱帯損傷に対して補強で使うことはありますが、断裂した場合にはほとんど使いません」
https://full-count.jp/2020/09/29/post916575/2/

今の技術やと硬くて伸び縮みしない人工靭帯はダメらしいけどそのうち素材改良してまた変わりそう