体外で細胞培養して毛を再生 横浜国大などがマウスで成功

 自分の毛髪再生の第一歩になるのか――。横浜国立大などの研究チームは、マウスの毛が作られる器官の機能を持つ細胞の塊(オルガノイド)を、マウスの皮膚から人工的に培養し、高い確率で長い毛が生えてくる技術を開発した。

 研究チームを率いる横浜国立大大学院工学研究院の福田淳二教授(再生医療)は「毛包(もうほう、毛が作られる器官)を含む一定の長さのある毛を、高い精度で人工的に作ることに成功したのは初めて」と話す。
論文を10月21日付の米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に発表した。

 実験では、黒い毛が生えるマウスの胎児の皮膚から、毛包のもとになる2種類の細胞を切り取り、細胞同士をつなぐたんぱく質の一種を混ぜて培養プレートで培養した。
すると、培養を始めてから4日目にほぼ100%の確率で毛包のオルガノイドを作り出すことができた。

 さらに、培養から6~10日目にはオルガノイドから黒い毛が生えていることを確認し、培養23日目で約3ミリに伸びた。

 オルガノイドの毛を切断し、毛包の付いた毛を実験用の毛の生えていないマウスの皮膚に移植すると、約1年間「毛の成長」→「脱毛」→「抜けたところから発毛」→「毛の成長」……というサイクルを繰り返した。
一本一本を田植えのように移植することで、その部分に植毛ができるという。

 研究チームは「人間でも再現できれば、脱毛症など治療に応用できるようになる」と期待を寄せる。

 ただし、現段階ではマウスのようにヒトの皮膚細胞から毛包を培養し、髪の毛を生やすことはできておらず、実用化の見通しも立っていない。ヒトへの応用に向けては、課題がいろいろあるという。

 福田教授によると毛髪の再生技術を巡っては、米国の研究チームがヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って毛髪の生えた皮膚を人工的に培養してから、マウスへ移植するのに成功した。
しかし、ヒトへの移植は安全性や費用の面での課題があり、医療現場での活用は難しいとみられているという。

 理化学研究所と再生医療のベンチャー企業は2018年、毛包のもとになる細胞を大量に作る技術を開発。
ヒトの頭部に移植することで毛髪を再生させようとする臨床研究の実施を目指していたが、新型コロナウイルスの感染拡大などが影響して中断している。【田中韻】
https://news.yahoo.co.jp/articles/ffb07cb0d5b5850d89d3106efb1fc3c42dcd2b22