新庄監督は「オレが子供だったら、近くで見たい」
 エスコンは「60フィートルール」を知らなかったのは間違いない。なぜなら工事が7割進んだ3月21日に、エスコンは報道陣向けに内覧会を開き、自ら「国内では最も近い球場」と、50フィートを鼻高々で説明しているからだ。つまり、意図的に破ったのではないのはこの内覧会で証明されているが、悪意がないから許されるという論理は、理解に苦しむ。そもそも悪意がないのは当たり前であって、意図的に破ったのならそれこそ大問題ではないか。

 実行委員会の出席者に事情を確かめたが、議論の中ではMLBの規則も披露されたそうだ。当該規則の原文には「recommended」とある。意味は「望ましい」。つまり日本の文言とは明らかにニュアンスが違い、そこがスポーツニッポンの記事の根拠にもなっているのだろうが、日本国内の球場が日本の野球規則以外の何に従うというのだ。仮に「60フィートルール」は知っていたが、現状にそぐわないと考えたのなら、設計段階でこう主張すべきである。

「大リーグでは60フィートは義務ではありません。ファンに今以上の臨場感を味わってもらうためにも、文言の一部を変更しませんか?  皆さんのご理解、ご賛同が得られれば、わが日本ハムが先駆けとなって50フィートの新球場を建設します」

 また発覚2日後の9日には、新庄剛志監督が言及した。スポーツ報知の記事によると「ファンの方たちから一番喜ばれる、そういう気持ちで造った球場っていうのは分かってほしいなと。オレが子供だったら、近くで見たい」と理解を求めたそうだ。

 建築にはさまざまな規制、法律がある。建築基準法はもちろん、自治体の条例や建蔽率、容積率。仮に周囲の日照権などを一切侵害しないが、10フィートだけルールから逸脱した建物を建てたとする。「誰にも害はない」「悪気もない」「何よりもかっこいい。僕がその家の子供ならこんな家に住みたいもん。しかもアメリカじゃこんなこと、珍しくないんでしょ?  だからよくない?」。周囲はみんなルールを守っていることを忘れてはいないだろうか。

 要するに問題の本質は「悪気の有無」でも「MLBとのニュアンスの違い」でも「ファンが喜ぶかどうか」でもない。現時点では実行委員会という非公開の会議で話し合われているだけだ。関係者に謝罪があったとは聞いたが、各球団からは「責任の所在を明確にしてくれ」と厳しい声が飛んだとも聞いた。