たけし家の長女は、可愛がっていたニワトリを探して「ピーちゃん知らない?」と父菊次郎に聞くと、珍しく台所にいてコンロで鍋の出来ぐあいを見ながら、
「こん中で煮ている」と言う。『その瞬間、姉貴は火のついたように泣き出した。おいらも「オヤジの野郎、ひでえことするな」と思ったけれど、とにかく腹が減っている。
うまそうな匂いがするので、結局、オヤジと一緒に食べることにした。そうしたら、泣きじゃくっていた姉貴まで食卓の前に座ったのには、さすがのおいらも驚いた。

「ピーちゃん、可哀相に。こんなになっちゃって」と口では言いながら、鳥鍋をつつき始めた。しまいにはお代わりまでしている。
「それ、ピーちゃんだろう」と、今なら言うだろうが、その時は腹が減っていてそれどころじゃなかった。

肉になってしまえば、ピーちゃんも何もない。』その場の情景を『そんな時代だったのだ』