彼は涙を拭うこともせず、ただひたすらバットを振り続けた。
寂しさから、不安から、逃れるように。
そうして途方もない数をこなした頃、ついに全身が悲鳴を上げた。同時に崩れるようにして地面に転がる。
大の字になって空を仰ぐと、薄紫色の景色が広がっていた。

きっと同じ空を見ている、遠く離れたあの人と繋がっているなら寂しくなんてない──彼は、何度も自分に言い聞かせる。
最後の日を思い出していた。10月、彼が1塁に滑り込んで全てが変わったあの日。そして胴上げを待つさなか見送った背中に、今でも思い焦がれているのだ。

「ボケでもアホでも言われていいから…会いたいっす…」
彼の切なげな呟きは、ぴゅうと吹いた冷たい風に飲み込まれた。