いちばんの悩みは頭の地肌にあり、いつのころからか疥癬あとのハゲが幾つもできていることだった。これは阿Qの身体の一部とはいえ、阿Qの考えによれば、やはり高貴なものとは思えぬようすで、それが証拠に彼は「ハゲ」という言葉とそれに近い発音をすべて忌み嫌ったので、しまいには禁句の範囲を押し広げて、「光る」もダメ、「明るい」もダメ、さらには「灯り」や「ロウソク」までもが禁句となった。ひとたびその禁句を口にする者がいれば、わざとであろうが知らずであろうが、阿Qはすべてのハゲを真っ赤にして怒り出し、相手を見て、口べたなら怒鳴りつけるし、弱そうなら殴りつけるのだが、どういうわけか、いつもたいてい阿Qの方がやられてしまうのだ。そこで彼は次第に方針転換して、いつも睨みつけることに改めた。 予期せぬことに阿Qが睨みつけ主義を採用すると、未荘の閑人どもはいっそう彼をからかいだした。会えば必ず驚いたふりをして「おや、明るくなったぞ」と言うのだ。 阿Qは例によって怒り出し、相手を睨みつける。 「なんだここにランプがあったんだ」彼らは気にしない。