兵庫県尼崎市立尼崎高校の硬式野球部で2020年秋、公式戦の前日に男性コーチがレギュラー選手らに対し、相手捕手のサインを見て味方の打者に伝える「サイン盗み」をするよう指示していたことが、関係者への取材で分かった。従わない場合は試合に出さないと告げ、選手に「バレたら俺と監督の首が飛ぶ」と口止めしていた。試合では実際にサイン盗みは行われず、同校は敗退した。

 市尼崎高は夏の甲子園に2回出場した強豪。日本高野連はサイン盗みを禁じており、指導者から選手に指示が出ていたことが明らかになるのは異例だ。

■従わぬなら「背番号返せ」

 当時のチーム関係者によると、指示があったのは20年9月20日夜。秋季兵庫県大会の3回戦を翌日に控え、ベンチ入り選手20人と記録員ら5人、臨時講師、男性コーチが校内施設に宿泊していた。

 男性コーチはミーティングと称し、レギュラー選手9人と走塁コーチ2人の計11人を部屋に集めた。翌日の試合について「サインを盗む。キャッチャーのサインが三塁コーチから見えたら、バッターに合図して伝えろ」と指示した。

 さらに「チームの代表である責任が分からないなら背番号を返せ」と告げ、指示に従うよう強く要求。「この部屋を出たら、他の部員や親にも言うな」と口外を禁じていた。

 翌日の試合では、三塁コーチは実際には打者に合図を出さず、ベンチからも再度の指示はなかった。

■部員1人、直後にうつ発症

 一方、サイン盗みに加担するよう迫られた部員の1人は、直後から不眠や嘔吐(おうと)などを発症。うつ状態と診断され、部活動に参加できなくなったという。

 学校は試合前日に不正な指示があったことを約2週間後に把握し、事実関係を認めた男性コーチを指導から外した。既に退職しているという。16年夏に33年ぶりの甲子園に導いた男性監督についても、指導自粛を命じた。監督は21年3月に指導を再開したが、直後の同4月に他校に異動している。

 同校では19、20年に硬式野球部、男子バレーボール部、水泳部で体罰やいじめが相次いで発覚した。各部の主力選手が所属する体育科は、第三者委員会から「成績至上主義で閉鎖的」と指摘されていた。

 監督の異動について、学校側は「一連の体罰・いじめ問題を受けた学校改革の一環。サイン盗みとは関係ない」と部員や保護者に説明している。

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