彡(゚)(゚)「今日は…やきうが…」
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仙台の雪はほとんど積もらない。
地理的なことはよくわからないが、
東北なら冬はもっとしっかり積もるものかと思っていた。
付き合いで少し酒を飲み、
酔いを冷ましてから帰ろうかと雪の降る街を歩いていた。
雪を見るとタクさんのことを思い出す。 数年前。
大雪の日。
あれはクリスマスより少し前だったか。
俺たちはチームのイベントで北海道に残っていた。
タクさんとの関係は、その時は恋人同士だった。
「ハルキ、歩いて飯行くか」
「雪やばいやん。家帰ろうよ」
「せっかくだしいいじゃん、俺こんな雪初めて。ハルキもでしょ?」
「まあ、そうやけど…」
タクさんが「すげー」とかはしゃいでるのを聞きながら、雪の降る道を歩いた。 夕食を食べて軽く酒を飲んで、
再び外に出ると雪はさらに激しくなっていた。
歩道も厚い雪に覆われて、道が分からない。
「タクさん、これ早いとこタクシー呼んだ方が…来るか分かんないけど」
「今呼んどいた。来るまで雪合戦だな」
「洒落になんないから…ってあっ」
俺の脇腹に鈍い衝撃、その後冷たい感触が広がった。
「ほらちゃんと避けないと」
やりやがったな、とも言わず、
俺はコートの雪を払って、お返しの雪玉を作って投げた。
そうして雪合戦のラリーが続いた。 「タクさん、そろそろタクシーも…」
直後、雪の下の氷に気付かず、俺がバランスを崩して転んだ。
幸いにも変なところを捻ったり、挫いたりはしていない。
こんなことで怪我でもしたら大変だ…と思いながら起き上がる。
「ハルキ、大丈夫?」
「大丈夫やけど…冷たい、寒い」
「じゃあ、これで」
タクさんがギュっと俺を抱きしめてきた。
「ちょ…誰かに見られたら…」
「こんだけ降ってたら、顔も見えないって」
「でも…あ、タクシー来たってほら」
離れてからも、確かに暖かかった、タクさんの体を感じていた。 家に帰って、そのままセックスが始まった。
抱きしめられた時からずっと、俺が我慢できなくなっていた。
仰向けのタクさんに覆いかぶさり、腰を振る。
時々キスをする。していない時はタクさんの吐息が耳にかかるのが心地良い。
俺の背中で組まれているタクさんの足の固さと暖かさも感じる。
全身でタクさんを感じている。
独り占めしている、幸せ。
「ね、いっていい?」
「ん…中で…?はぁ、はぁ…」
「うん、俺もう一回できるから、出したい」
「いいよ」
「タクさん…やばい、いく、いく……んっ」
タクさんのお尻に一層強く腰を打ち付け、果てた。
そしてそのままタクさんのモノをしごいて、果てさせる。 その日の夜はそれからも続き、
二人で暖かくして寝て、朝を迎えた。
「うおっ、すげっ」
先に起きたタクさんが窓を開けてはしゃいでいる。
「ハルキ、これ見て、ほら」
いつもの道が、深い雪で全く違う光景になっていた。
「きれいやね」
「すごいよなー、朝の方が綺麗なんだな」
いい歳して、こんなに雪の日にはしゃげる、先輩であり彼氏。
昨晩あんなに愛したのに、またたまらなく愛おしく思い、肩を抱き寄せた。 そして今。
俺は特に目的も無いまま、雪の降るクリスマスの仙台を歩いている。
定禅寺通りに近づくにつれて人の量が増えていく。
すっかり忘れていた。
この通りでは光のページェントという大きなイルミネーションが開かれていた。
俺はそのままイルミネーションの下を歩き始める。 付き合ってた頃の二人で来たら盛り上がっただろうな。
クリスマスだったら、余計に。
あの大雪の日から1年、2年くらい経って、
俺たちはただの先輩と後輩に戻った。
何かきっかけがあったわけではないが、
近くにいるのに、次第に距離ができていった。
どちらが悪いとかそういうことではなかった、気がする。
お互いを傷つけたくなくて、傷つけてしまう前に、やめてしまった。 タクさんと別れてから、何度か別の恋人もできた。
でもタクさん以上に好きになることなんてできず、
長続きなんてすることも無かった。
イルミネーションの光と光の間を、小さな雪が降りてくる。
これじゃ今日も積もらないだろう。
あの大粒の雪の日は楽しかった。
今はつまらない。
こんなに綺麗な街を歩いていても、考えるのは過去のことばかり。
光と雪の美しさに感動する周りの人々の声も、俺には聞こえない。
適当に夕飯でも食べて、そろそろ帰ろうか。 ~♪
https://www.youtube.com/watch?v=03Xa38nfhGw
純白の雪が降る 街から音が全て奪われていった
こんなに静かだと閉じ込めた言葉も聴こえてしまいそう
雑音の中、貴方の声だけ心に溶けていく
まるでミルクを溢した様なそんな夜
空を見上げて一人呟いた 消えて欲しいような言葉だけ
だけど心の音だけは この雪も奪えない
クリスマスなんて無ければ
いつも通りの何にも変わらない夜なのに
聖なる旋律は雪に溶けて
自分の鼓動が響いている
夜を泳ぐように過ごしたあの瞬間を
このスノードームみたいに閉じ込められたら
見えない星に願いを込めて
音が無くなった夜に
~SEKAI NO OWARI「Silent」 光のページェントを抜けて、どちらに曲がろうかと少し考え、
タクシーの捕まえやすそうな方へ歩き出す。
その瞬間、ふと横目に入ったイルミネーションが一気に消灯した。
そうか、もうこんな時間になると、ずっと点いているわけじゃないのか。
物寂しい気持ちに浸っていたのも、明かりと一緒にふっと消えてしまった気がした。
またあれこれ考え出す前に、早く帰って、寝てしまおう。
「なあ、ハルキ」
突然に、後ろから、先程まで何度も思い出していた声が聞こえた。
俺は即座に振り向く。
「タクさん…?なんで…?」 「なんか…最近、ハルキのこと考えちゃって、会いたいな…とか、ハルキはどうかな、とか」
「タクさん…」
俺は抱きしめこそしないものの、駆け寄る。
今更会ったからって、また恋をしたからって、今の状況じゃどうしようもないのに。
辛い思いをするだけだ…でも。
今、会いたいという気持ちを満たせるだけでも、
今日のクリスマスは、少しマシになるはずだ。
もしかしたらその後も、何か変わる…変えられるのか。
「ちょっと遅くなっちゃったな、店とかあるかな、ハルキ知ってる?」
「歩きながら考えよう」
やや過剰にコートを着込んで俺の横を歩く人は、
イルミネーションよりも綺麗に輝いているように感じた。
今日の積もらない儚い雪も、このまま思い出になってくれるのかもしれない。
END
※全てフィクションで実在の人物には全く関係ありません。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています