新型コロナウイルス感染拡大の「第8波」が長期化し、市販の風邪薬の需要が高止まりする中、昨年12月以降、中国での感染拡大の影響で、中国人が日本で風邪薬を買い占めをする事例が相次いだ。主に日本に住む中国人が、中国に住む家族などのために解熱鎮痛薬や総合感冒薬を大量購入していたとみられ、厚生労働省は販売店に販売制限などを要請。需要過多の状態は当面続くとみられ、専門家は過度な購入を避け、冷静な行動を呼び掛ける。

昨年12月上旬、文京区の「高木薬局」を訪れた男性客は、同薬局の高木孝一郎代表(46)にスマートフォンを差し出した。画面に表示されていたのは大手製薬会社が製造する解熱鎮痛薬の画像。男性は翻訳アプリを使い、中国語で高木代表に「この薬はありますか」と尋ねた。高木代表が在庫がある旨を伝えると、男性は「全部ください」と申し出たという。

昨年12月、中国政府が「ゼロコロナ」政策を転換したことで、中国では新型コロナ感染者が急増。それに伴い、日本国内で中国人とみられる客が、日本で市販されている解熱鎮痛薬や総合感冒薬を「買い占め」する事例が相次いだ。

厚生労働省は大量購入が相次いだことを受け、昨年12月26日、安定供給のためにドラッグストアや薬局などの業界団体に対し、1人が購入できる量を制限することなどを要請した。

同薬局にも、12月下旬までに複数の外国人客が解熱鎮痛薬や総合感冒薬を購入しようと訪れた。1人1点限りの購入制限を設けて対応したが、一部の解熱鎮痛薬などは問屋からの入荷も遅れるようになった。高木代表は「11月までは注文したら翌日には入荷していた薬も、今は月に2回程度しか入ってこない。中には入荷未定の薬もある」とため息をつく。

大手ドラッグストアチェーンの広報担当者も「在日の中国人が、中国にいる家族や友人などのために解熱鎮痛薬や総合感冒薬などを購入しているようだ」と話す。同チェーンでは厚生労働省の要請以前から、需要が高まっている解熱鎮痛薬について、1家族2個までの購入制限を設けるなどの対応を行っており、現時点では解熱鎮痛薬や総合感冒薬が「品薄になってはいない」という。

だが、日本国内でも新型コロナの感染者数は依然として高い水準にあり、需要が高止まりしていることから、「こうした状況が長期化すれば、今後、品薄になる可能性はある」と話す。

都内に住む30代の中国人男性は「中国に住む両親、親族は今のところ、コロナ禍で亡くなったり重症となったケースはないが、万が一のことがあってからでは遅い」と危機感をあらわにする。「これまでも家族から薬を送ってほしいという依頼があった」といい、昨秋には来日していた知人を介して市販の風邪薬を約20箱、両親に届けた。だが、「親族などに分けて、両親の手元には1週間分程度しか残らなかった」という。

神奈川県立保健福祉大大学院の坂巻弘之教授(医薬品政策)は「原料や製造ラインが限られていることから、需要が増加しても急な増産は難しい」と指摘する。坂巻教授は「コロナ禍が収束しない限り、需要と供給のバランスが取れていない状況が続く」と述べ、「過度な購入は避け、必要な分だけを購入するなど、冷静に対応することが求められる」と呼び掛けた。(長橋和之、中村雅和)

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