こんな言いかたは、僕自身も不愉快だし、言ってはいけない事なんだが、どうも事実だから致しかたが無い。あんな顔は、僕は生れてはじめて見た。男は顔なんて問題じゃない、精神さえきよらかなら大丈夫、立派に社会生活ができるという事は、僕も堅く信じているが、俊雄君のように若くて、そうして慶応の文科のような華やかなところで勉強している身が、あんな顔では、ずいぶん苦しい事だってあるだろうと思う。実際、顔を合せると、こちらまで人生がいやになるくらいなのだ。本当に、ひどいのだ。あの人は、これからの永い人生に於おいても、その先天的なもののために、幾度か人に指さされ、かげ口を言われ、敬遠せられる事だろう。