0001それでも動く名無し
2023/02/01(水) 03:25:42.07ID:+VNAxHEo0問いかけに対して俺は頷いた。退任を発表した日から、早くも丸1年が経った。
あえて1年前に宣言したのだから、今の立場にいることは想像の範囲内だ。
勿論、思い描いていた未来と違っていた部分はある。
俺たちの夢を叶えられなかったこと。そして、傍にこいつがいること。
辞めてしまったからもう関係がないはずのこいつが、俺との関わりを求めるのだ。
心に訴えかけてくるような、その目が苦しい。
あの日、別の選択肢へ進んでいれば今も監督だったのだろうか。
「ゴチャゴチャ言うなや!絶対辞めへんわ!ボケ!アホ!」
「え……!」
「…って言うてたら今頃、変わってたんかもしれへんな……」
それは無意識に溢れ出した独り言だった。
驚かせてしまったことに気まずくなって、誤魔化すようにして遠くの景色を眺める。
果てしなく広がる空によって、後悔という感情の波が押し寄せた。
「…過去なんて振り返る必要ないんすよ」
何の迷いも感じさせない声が俺を引き留めた。
「進みましょう。だから僕は、今年もアカンすよって言い続けます」
風が吹き抜ける。その風は前に進めと背中を押してくれているような気がした。