https://news.yahoo.co.jp/articles/2f9e174eb6c604555020b179cc957135566a89c8

打席付近に左打ちの俊足5人が集められた。中野拓夢、植田海(両打ち)、島田海吏、近本光司、小幡竜平である。

 何かあると思い、ポケットからストップウオッチを取り出した。

 阪神・宜野座キャンプでの臨時コーチに赤星憲広(本紙評論家)を招いての走塁教室初日。打席でバットを持ち、トスした球を実際に打って、一塁に駆け抜ける。そのタイムを計ってみた。

 1本目は皆、引っ張っていた。2本目は三遊間方向に当てて転がした。ソフトボールの「スラッシュ」、いわゆる「走り打ち」の格好だった。見た目にも明らかに2本目の方が速い。手もとの計測で中野、植田、小幡は0秒5以上速かった。

 1本目は平均4秒27、2本目は3秒84。0秒43“も”短縮されていた。塁間27メートル43を4秒00で走るとすれば秒速6メートル86。0秒43を距離に直せば2・95メートルにもなる。この差は大きい。間一髪やあと1歩どころか、2歩ほど差があることになる。

 「朝のミーティングでオレが言うたんや」と監督・岡田彰布の提案だった。「近本は振り切る。あんまり走り打ちみたいなのは見ない。あの足があったら内野安打ももうちょっとな……」

 昨季の内野安打数を見ると、近本は18本で154安打のうち11・7%だった。チーム最多は中野の20本で12・7%。赤星が現役時代は相当で、通算1276安打中、内野安打は288本、実に22・6%を占めていた。

 「走り打ち」のタイム計測を赤星は「あれは僕ではなく監督の発案」としたうえで「こんなにも違うんだ」と驚いた。

 岡田は言う。「きっちり打ちたいのは分かるけど、追い込まれて、左対左で難しいボールが来て、ちょんと走り打ちで(一塁)セーフやったら、チームにプラスやし、自分の打率も上がる」

 「走り打ち」は「当て逃げ」とも呼ばれ、左打者の打撃指導では禁じ手の一つだ。だが2ストライク後の難球対応では金本知憲(本紙評論家)も「ボテボテを狙う」と話していた。金本は1002打席無併殺打のプロ野球記録を持つ。岡田は中野の昨季併殺打9本を例にあげ「三遊間打ったらゲッツーない」と「走り打ち」の効用をあげる。