これは小説か、ゲームか、映画なのか。世界一を決する舞台で、紛れもない主人公になった。「3番・DH」を解除した大谷が、1点リードの9回にマウンドへ。

観衆から「USA!」コールが容赦なく浴びせられる中、バックネット側6階席にある記者席には歴史的瞬間を見ようと関係者が集まり始めた。
フルカウントから四球。2番トラウトを打ち取って世界一決定という出来すぎたストーリーは実現しないかと思われた。

しかし、2人はそれでも運命に導かれた。

1番ベッツを力のある直球でねじ伏せて二ゴロ。併殺打でトラウトを迎えた。
「こんなことあるんだ……」。呟いた筆者に同調するかのように、近くの米記者も「What’s happen?(何が起きたんだ)」と興奮と困惑が入り混じったリアクションをしていた。
夢のシナリオが実現したとあり、記者席の米メディア関係者も、スタンドのファンもスマホを取り出して撮影を開始した。
出力マックスの大谷は100マイル超えを連発。2-2からの5球目には、この日最速の102マイル(約164キロ)を計測した。
 これが8回までDHだった男の球なのか。
もう目が離せない米記者は「ワン、オー、ツー…(1、0、2…)!」と舌を巻くしかなかった。

勝負の6球目、大谷が投じたのは外角スライダーだった。トラウトも対応できない鋭いキレで、空振り三振。その瞬間、全ての時が止まった。
クールだった大谷はグラブ、キャップを脱ぎ捨て、拳を突き上げ咆哮し、歓喜の輪の中心になった。

終始ホームの雰囲気だった米国ベンチは、多くの選手がショックからか動けず。しかし、本来“敵役”となる立ち位置の大谷を米ファンも認め、場内は割れんばかりの歓声と拍手が送られた。日本人がだ。まさか、日本人が、アメリカで勝って、アメリカ人達にこれほど祝われる事があるだろうか?

米国のデローサ監督ですら「ユニコーンのような存在。他の人は彼のような存在になれない」とそのスター性を手放しで称え、日本代表のヌートバーも「(記者の方を指差し)僕もそちらの方が書いた物語かと思った(笑)」と2人の対戦を表現した。

これは、歴史に残る数分間だ。