娘が家を出ていった…ごめんな、オリックスの優勝を見せてあげられなくて
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文春野球コラム ペナントレース2021 木村 幹 2021/04/01
すいません、今日はこれしか書けません。許してください。
娘が家を出ていった。より正確には下の娘だ。
既に上の娘も家を離れ、とあるパリーグ所属の球団本拠地のある街で暮らしている。
子供は二人しかいないから、これで家には、自分と妻以外には誰もいなくなったことになる。
思えばここまでの20年間は本当にあっという間だった。
病院での子供たちの出産に立ち会い - と言っても父親にはできる事など何もないのだが -
病気がちな子供らをハラハラと病室で見守る。
せがまれて公園に行き、ベンチで本を読んでいると、いつの間にかどこかで大声で泣いている。
幼稚園の送り迎えでは、いろいろなたわいもない話をして、近所のお母さん方から奇妙な目で見られたものだ。
海外に行く事の多い仕事だったので、数か月から1年くらいの期間で外国に住む事もあった。
韓国、オーストラリア、アメリカ、今思い出せば楽しい事しかなかったように思えてくるけど
子供たちからすれば突然、言葉の通じない国で、現地の学校に入れられるのだからたまったものではなかっただろう。
ずいぶん勝手な親だったよな、と苦笑いしてしまう。ごめんな苦労ばかりかけて。 でも、娘たちが小学校に入ると、だんだん親のできる事は少なくなる。
特に男親と娘の関係はそうだ。話す機会もぐっと少なくなる。
妻が娘たちと楽しそうに話し、ショッピング等に出かけるたびに、「男親なんてつまらない」、何度そう思ったかわからない。
そんな自分と娘たちの間の数少ない会話の材料が、オリックスだった。
以前にも書いたように、兵庫県内では時々、小学校でオリックス戦の「割引チケット」を配っている。
因みに昔は「小学生無料招待チケット」だったから、世の中は確実に世知辛くなっている。
そして、この割引チケットを使って、子供たちを大阪や神戸の球場に連れて行った。
秋には高知、そして春には宮崎のキャンプにも行った。高知のカツオも宮崎の宮崎牛も美味しかったな。
だから我が家には、まだルーキーだった頃のあどけない山本由伸が、幼い娘たちと、どちらも些か緊張気味な表情で写った写真なんかが沢山残されている。 最初のうち子供たちは明らかに退屈そうだったし、親に気を使って一緒に来てくれている事は明らかだった。
あかんな、こんなことしてちゃ。
でも、そう思っていたら、そのうち試合に興味を持つようになって、選手についても、いつのまにか、とても詳しくなった。
あの頃、彼女等が「推して」いたのは、上の子が安達、下の子が駿太だったから、今らか思えばなかなかの「目利き」だったと思う。
特に、下の子は幼い自分と若い駿太を重ねてみているようで、「駿太、あんなに頑張っているのに、どうして結果がなかなか出ないのかな」とよく言っていた。
思い起こせば、もう今から10年近くも前の事だ。 珍しいだけでそんな見たいものちゃうやろ
便器にうんこしたら茶柱みたいにうんこが立ったみたいなもんや そうして、今年の本拠地開幕戦が行われた3月30日は、娘が家を出る前日に当たっていた。
「引っ越しの準備で忙しいと思うけど、最後だから行くか」と聞いた自分に同行してくれたのは
単に野球が見たかったのか、それとも父親に多少は気を使ってくれたのか。
「駿太推し」の彼女は、彼がベンチにすらいないことについて、ずっと監督を批判していたが、それもまた何時もの事だ。
そうかあれからもう10年。
気が付いたら、駿太も俺も崖っぶちやん。
でも、そんな時間も、たぶん今日が最後。
今年は延長がないから、9回が終わったら、この楽しい時間もきっちり終了だ。
試合はまずい守備で失点したオリックスが、ソフトバンクに1対3で敗北。
まあ、負け試合なんて慣れっこだけど、最後がゲッツー、しかもオリックス側がリクエストして、チャレンジ失敗という何とも締まらない終わり方。
でも、あのリクエストが成功していたら、楽しい時間がほんのもう少しだけ長く続いたのかもしれない、と思うとちょっと残念だ。 そして翌日の朝、娘は家を出て行った。
去り際に彼女は言った。
「お父さん、今度の街では『本拠地開幕戦』じゃなくて、『本当の開幕戦』が見れるかもしれないね」。
ごめんな、オリックスの優勝も、「本当の開幕戦」も見せてやれなくて。
でも今まで本当に楽しかったよ、ありがとう。とても幸せだった。
もうお父さんに気を使う必要はないから、好きな試合を見て、好きに生きてくれ。
そして、最後にもう一度、ありがとう。
それから今日渡したお弁当代のお釣りはいつか返してくれ。そういうことは大人として大事だからな。
でもさ、明日からは、自分はどうやって生きていけばいいのかな。
球場に行ったらどこにどうやって座ればいいんだろう。そうか、自分も全てはここからやり直しなんだ。
だとすれば、自分の人生もここからが「本拠地開幕」だ。
寂しいけど、とても寂しいけど、どうにか頑張ろう。
オリックスにも自分にも、「残されたシーズン」はまだまだ長いんだ。
駿太、京セラで待ってるぞ。俺の大事な娘の期待を裏切ったら許さないからな。 こんな悲しい名文書いてたのに翌年は普通にポジりまくってたのなんか草 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています