僕は数年前、まだ30歳になって間もなかった頃、自分がゲイであることを母に打ち明けた。

 別に一生言う必要もないだろうと考えていたのだが、言わないことで何となく母に対して感じ続けていた心の距離を、ありのままを話すことによって縮めようと思ったのだ。
女手ひとつで僕を育ててくれた母との関係を、30代になったということもあり、修復したかったというのもある。

そして僕は、いつもと変わらないある休日の夜、意を決して話した。

「実は、男の人が好きなんだ」

「知ってたよ。母親が気付かないわけないでしょ」

母はなんでもないことのようにそう言った。僕の性的指向を、あっけないほどに受け入れてくれていたのだ。

まぁ思い返せば、僕は昔からBLのライトノベルや漫画、そして海外ゲイ映画のDVDなどを実家の部屋に置いていた。
そりゃ母も気付くだろうよと今なら冷静に思えるのだが、カミングアウトした直後に母の口からこの言葉を聞いた時は、ようやく真正面から向き合えた気がして、不覚にも泣いてしまった。

この瞬間までは、これから改めて母とちゃんとした親子関係が構築できると信じていた。
その直後、何の脈絡もなく彼女がいきなり安倍元首相や日本政府を称賛する話を始めるまでは。

僕が勇気を振り絞って行ったカミングアウトは、母の唐突な安倍晋三語りにより、たった数分で終了した。

僕は当時、安倍元首相の政策のいくつかには疑問を感じていたものの、そこまで否定的な感情を抱いていたわけではない。
ただ、僕のカミングアウトとは何の関係もない元首相への称賛トークを母がいきなり始めたことには正直、面食らった。

なぜ母は急にそんな話を僕に向かって語り出したのか。その理由を探る前に、まず数年前から彼女に起きはじめたある変化について記したい。

https://news.yahoo.co.jp/articles/06414a62e475c5a8491947dfffb5f05b579ca67b?page=1