生涯で何人もの女性と関係を持ち、そのスキャンダラスな私生活でも知られる画家パブロ・ピカソ。ジェンダー問題に敏感な現代社会は、この天才をも「再評価」しようとしている。

その破天荒な人柄や女性に対するふるまいが、彼の作品の価格に影響を与えたことはなかった。だが、状況は変わりつつある。スペイン紙「エル・パイス」は、アート情報サイト「Mutualart.com」におけるピカソの作品価格に“疲労感”が見られるとし、彼の歴史のなかで前例がないことだと報じた。

2023年4月までに、オークションに出品されたピカソの作品は1798作ある。そのうちの55.2%に買い手がつき、合計の落札金額は9700万ドル(約130億円)強だった。過去の例を見ると、2022年の落札金額の合計は約5億1100万ドル(約688億円)。2021年は年間で5522作が出品され、73%近い4001作の売買が成立し、落札金額の合計は6億6700万ドル(約898億円)に及んだ。同紙はこの数字を下落の兆しと見ているが、同時に、残り8ヵ月の伸びを見る必要があると慎重な姿勢も見せる。

とは言うものの、暗い影が見え隠れしている。英「エコノミスト」誌によると、1999年以降、ピカソの作品の価格は、同時代の他作家の2倍の速さで上昇していた。しかし2023年に入り、価格は下落している。ただし、オークション全体の平均価格もだ。Mutualart.comによると、今年オークションで落札された作品の平均価格は3776ドル(約50万円)で、2022年の4401ドル、2020年の5252ドルと比べても低い。

ピカソ作品の価格の低下について、いくつかの原因が考えられる。エル・パイスは、この世界的な危機の時代に、コレクターが所有作品を手放すことに弱腰であること、加えて、ピカソの私生活への疑問を要因に挙げる。エコノミストも同様に、ピカソの女性に対する「下劣な振る舞い」と、「現代の芸術家へのピカソの影響力の低下」を指摘する。

没後50年にあたる2023年、美術館関係者だけでなく世間でも、ときに暴君的とも言える、女性たちへのピカソの行動に批判が高まっている。エコノミストは、サルバドール・ダリやバルテュスも含めた著名な芸術家の作品も、彼らのプライベートでの振る舞いによって批評家やコレクターの目から価値が失われてしまったとし、世界各地で開催される没後50周年の展覧会がどのように受け止められるのか、コレクターの不安を伝える。

他方で、スペイン・マドリードにあるソフィア王妃芸術センターの前館長マヌエル・ボルハ=ヴィレルは、「中長期的にピカソの重要性が薄れていくとは思えない」とエル・パイスの取材に語る。

ボルハ=ヴィレルの読みは正しいのだろうか。今後のピカソの立ち位置は、これから開催されるオークションの結果で明らかになるだろう。

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