https://gendai.media/articles/-/83863?page=2
サンデルは、平等な競争に基づくものであっても能力主義は否定しなければならない理由を二つ挙げている。

一つめは、「能力主義は才能の道徳的恣意性を無視している」という点だ。能力主義の理想とは、生まれた家や育った環境などの条件の差を排除して、すべての人が競争の場において自分の才能を活かせることである。しかし、わたしたちは自分がどんな家に生まれてどんな環境で育つかを選ぶことはできないのと同様に、自分がどんな才能を持って生まれてくるかを選ぶこともできない。

受験戦争に勝ち抜いて難関大学に入れるだけの頭脳を持って生まれることやスポーツで活躍してオリンピックに出場できるほどの肉体を持って生まれることは、資産家の家に生まれることや文化資本にあふれた環境で育つことと同じように偶然に左右される恣意的なものである。

生まれる家や育つ環境などの差を排除した完全な能力主義であっても、才能の差を排除することはできない。この問題に対処するために能力主義者たちは「競争で勝てるかどうかは才能だけでなく努力も関わってくる」と主張するが、才能の差は努力では乗り越えられないことが多い、とサンデルは反論する。