本拠地バンテリンドームで迎えたDeNA戦
九回表で10点の大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だった
ドームに響くファンの怒号、どこからか聞こえる「明日も白米抜きだな」の声
私語禁止のためか無言で帰り始める選手達の中、近藤は1人ベンチで泣いていた
監督との信頼関係…
それを今の中日で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」近藤は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、近藤ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、早く帰ってミーティングに参加しなくっちゃな」近藤は絶望しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、近藤はふと気付いた

「あれ・・・？お客さんがいる・・・？」
ベンチから飛び出した近藤が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにドラゴンズの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする近藤の背中に、聞き覚えのない声が聞こえてきた

「真一、投球練習だ、はやく行くぞ」声の方に振り返った近藤は目を疑った
「えっ！？な、中村武志さん？え？真一？」 「近藤さん？どうかなさいましたか？」
「た、立浪監督！？」 「おう真一、監督はワシやぞ」
「星野・・・監督・・・」 　近藤は顔面蒼白になりながらスコアボードを見上げた
１番：彦野　２番：立浪　３番：ゲーリー　４番：落合　５番：宇野　６番：中尾　７番：川又　８番：大石　９番：近藤
暫時、唖然としていた近藤だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ！」
ドラ坊やからグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する近藤、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている近藤が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った