覚醒のきっかけは、投げる左手ではなく、グラブを持つ右手だった。
移籍後の投球を見た大塚投手コーチが、こうささやいた。

「もったいないんだよなあ。右手をうまく使えれば、絶対にいいボールがいくようになるはずなんだよ」

ただし、相手は本人ではなくオリックスで同僚だった後藤だった。
技術的な確信はあったが、移籍直後にコーチが呼び付ければ、選手は必ず身構える。頼まれてはいないが、後藤は斎藤に伝えた。
後がない斎藤は、そのワラにすがった。聞く耳さえもってくれれば、後は一気に進んだ。