まるで北朝鮮の「マスゲーム」

 慶應高校の夏の甲子園での優勝。107年ぶりの歴史的快挙を成し遂げた選手たちには賞賛の声が寄せられる一方、その応援風景に眉をひそめ、違和感を表明する人も。なぜ、「慶應の応援」は批判の対象となったのか。慶應大学名誉教授に聞いてみると――。

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 それはまるで北朝鮮の「マスゲーム」のような光景だった。8月23日、「夏の甲子園」決勝の慶應義塾vs仙台育英。3‐2と辛うじて慶應の1点リードで迎えた5回表。2死二塁の場面でタイムリーが出て1点が入ると、慶應の応援席からは地鳴りのような大歓声が上がる。そして、

♪若き血に燃ゆる者……慶應 慶應 陸の王者 慶應

 ――応援歌「若き血」の大合唱。隣同士で肩を組んで歌うため、スタンド全体が巨大な生き物のように揺れる。歌い終わった後も休むことなく、

♪チャンスだ打てよ チャンスだ打てよ チャンスだ打てよ オー! 

 と、拳を振り上げての「ダッシュKEIO」。追加点が入るとまたしても「若き血」が球場全体に響き渡り、切れ目なく「ダッシュKEIO」が続く。

 そんな異様な雰囲気の中、2死二、三塁でバッターボックスに立ったのが、「慶應のプリンス」こと丸田湊斗選手である。丸田選手が放った打球は左中間にふらふらっと上がり、打ち取られたかに見えたが、左翼手と中堅手が交錯して、落球。2人の走者が生還すると、慶應側スタンドのボルテージは最高潮に達した。体を揺らし、声を張り上げて「若き血」を歌う一群の中には、慶應幼稚舎の児童と思しき子供たちの姿もあった……。