《在任中は11人の死刑囚への死刑執行を命じた。法務省が執行の事実と人数を公表するようになった10年11月以降では、上川陽子前法相の16人、鳩山邦夫元法相の13人に次いで多い》

過去に執行命令書への署名を拒んだ法相が何人かいましたが、法相を引き受けておいて死刑を執行しないなんておかしい。法律で死刑という制度が定められていて、その執行は「法務大臣の命令による」と書いてあるのですから、個人の信念や宗教上の理由で執行しないのは間違っています。できないのなら、法相としてただちに法改正の作業に着手すべきです。

ただし、死刑制度に対する世論の動向はよく見極める必要があるでしょう。内閣府が5年に1度実施している世論調査では、約8割が死刑制度を容認しています。一方、世界的には死刑を執行している国は少数派。(冤罪(えんざい)などの)弊害もないわけではありません。そういったことには十分に意を用いるべきだと思います。

《執行命令書の署名にあたっては、判決の関連資料を読み込み、死刑囚の生い立ちや犯罪に手を染めた経緯などにも意識を向け、自分なりに納得した上でサインすることを心掛けた》

死刑判決の資料はできるだけていねいに読むようにしていました。人の命を奪えと命令する以上は、そのために部下がそろえてきた資料をよく読み、「よし、これはやるべし」というふうにしないといけないと考えていたのです。

他の法相経験者はどうか知りませんが、私は大臣室の引き出しに仏像と数珠を入れておき、署名時に手を合わせていました。やっぱり、なかなか荷の重い仕事ですから。

私が執行を命じた死刑囚はほとんどが虐待を受けており、「こんな育て方をされちゃかわいそうだな」と思うような子供時代を送っていました。いろいろ事情はあると思いますが、子供は誕生を祝福され、「生まれてきてよかった」と思える環境で育つことが大事だと、つくづく思います。

1人だけ、タイプの違う死刑囚がいました。高校の同級生が「あいつはクラスのホープだった。必ずひとかどの人間になると思っていた」と証言していたのです。死刑判決を受けるような残虐な罪を犯す人に、こういう証言が出てくるのは珍しい。不思議に思っていると、秘書官が「これはばくちです」と言いました。ばくちに狂いカネに困って犯した罪だったのです。
https://www.sankei.com/article/20220423-A6URPBUG6JPSZAFROEXUDSPA24/